第33章 アップルアンドシナモン2
駅前の雑居ビルにある小さな居酒屋さんは、お肉が美味しくて評判だった。
今日は男の人達の奢りらしく、少ないお小遣いが減らないことに少しだけ安堵した。
現地集合だったので、そのまま店の奥の個室に通された。
人生で初の合コンというのは…なんとも言えないものだった。
なるべく他の女の子達が目立つように私はせかせかとグラスを移動させたり、料理を1つのお皿にまとめたり、裏方に努めた。
上座の電気があまり当たらないところにいたのも相まってか、話しかけてくる人も少なかった。
終わりに差し掛かって解散することになり、二次会組とお別れした。
「帰らなきゃ…」
バスの時刻を見ると最後のバスが数分前に出たところだった。
「あっ……」
『繋心さん、ごめんなさい、バス逃がしました(>_<)
もうビール飲んじゃいました?』
『迎えに行くつもりだった、大丈夫。
遅くなるから適当にどっか入れ』
繋心さんの優しさにどこか安心する。
昼間に、モヤモヤしてたのが嘘のようだった。
嬉しくて顔が緩まる。
どこか寄れないかと駅前まで戻り、まだこの時間も空いているカフェに立ち寄る。
カフェオレを頼んで座ろうとしたところで話し掛けられる。
「あ!!!!お前!!!」
この大きな声にとても聞き覚えがあった。
「あ…」
「烏野でマネやってた奴だろ!!?」
「マネじゃないんですけど…そうです…お久し振りです。
ええっと…」
「木兎だっ!!!」
「あ、そうでした、懐かしいです」
二回程しか話したことなかったけれど、印象的でよく覚えていた。
たまたま部活を見学していた日に練習試合に来てくれた学校があった。
帰り際に、
『一目惚れした、東京まで付いてきてくれ!!』
冗談だと思っていたら本気だったらしく、バスに乗せられそうになったのをふと思い出す。