第32章 【ほぼ本編】アップルアンドシナモン
「上手くやってんだー、彼女と」
「ああ」
「可愛いよね、あの子」
「ああ」
噂をすれば、るるから夕飯を駅前で食べるというメッセージが来た。
駅前でとなると、万が一バスを逃がすと帰って来れなくなる。
晩酌はお預けだな、と思いながらコイツが散らかした物を片付ける。
客用マグカップがなかったことを思い出し、仕方がないので洗い場にあるものを適当に使って出す。
「ねえねえ、どのくらいの頻度でシてんの?
やっぱ同棲すると、減る?」
「教えるかアホ」
何を聞いてくるかと思えばこんな下らない質問。
「いーじゃん別にー。
あ、私が教えたら教えてくれる?」
「言わねーよ」
「もー、ほんとケチだよね」
「うるせえ、帰れ」
るるが遅くなると思うと、なんとなく、慌てなくていい気持ちが芽生え、ついコイツとのんびりコーヒーを飲んでしまった。
「ねえ、私とも、続けられない?」
「はあ??お前そろそろ言ってること…」
「色々思い出しちゃってさー」
「お前のせいで終わったんだ」
「そうだけどー」
「無理だな」
「即答なんだ…」
「当たり前だバーカ」
もう終わったことになんだかんだ言いたくはない。
断る理由なんて山ほどある。
コイツが嫌いな部類に入るのもだが、アイツを裏切るのは毛頭出来ないし、するつもりもない。
それくらい夢中だ。
そういうのをきちんと言葉にして言うべきなのかもしれないが、悪い癖で、なにも言えなかった。
ただ、同じ女なら、この家を見たなら一刻も早く出て二度と姿を現してほしくない。
というでかい本音は言いたい。