第30章 【番外編】見ている景色
ずぶ濡れになったお互いの身体を休憩小屋で拭く。
持ってきたタオルでは案の定事足りない。
「そんな、急に降らなくてもね…?」
外を眺めながらるるはぼやいた。
「お前が怒るから…」
「お、怒ってませんよっ」
ひくし、と言いながら小さいくしゃみをする。
「ほら、こっちこい」
ベンチに座らせ、まだ少しは乾いているスポーツタオルを肩に乗せてやる。
「私は大丈夫ですから…」
「…後ろ、透けてる…」
「!!!」
濡れて張り付いた衣服からくっきりわかるブラのライン。
リボンの飾りまでしっかり見てとれた。
「す、すみません…」
「誰もいなくてよかったな」
「うん…」
ザーザーと音の鳴る雨はしばらく止みそうにない。
遠のく雷もまだ少し音が聞こえる。
初夏とはいえ、濡れてると割と冷えてくる。
残念ながらこのシーズンの自販機は冷えた飲み物しかない。
「るる、来い」
隣に座って膝に抱き寄せる。
「なっ…」
「冷えたらヤバいぞ、くっついとけ」
「はっ、はい…」
顔を真っ赤にして膝に乗ってくる。
後ろから抱き締めるように腕を回すと、緊張してるのか身体が強ばってくる。
「何緊張してんだよ…」
「そ、外だし、明るいし…」
「誰も見てねーよ」
「ん…」
「期待してんのか?」
くくっと喉で笑う。
照れて怒るかと思いきや、いつもの蕩けた顔を向けてくる。
「しちゃってる…」
と消え入りそうな声で言われる。
予想していなかったことに、いつもの3倍近く脳が動揺する。
雨が池を打つ。
水面の揺れは、動揺と同じくらい。