第30章 【番外編】見ている景色
元武家屋敷だというその公園はだだっ広く、和風の庭園が現在もしっかり完備されており、観光地としてそこそこ有名だった。
が、夕立の予報が出てるせいか、俺たちが着く時間帯には人があまりいなかった。
渋滞も大してしてなかったが、やはりせっかくの遠出ということで、道の駅に寄ったりしたのが原因だろう。
園内は一周でもして帰るつもりでいたから、それはそれで良かったのかもしれない。
何より寄った店の蕎麦は名店中の名店で、大変美味だった。
「久々に運転してる繋心さん見れますね」
とるるは嬉しそうに言った。
「…そんなにいいかよ、つまんなくないか?」
「腕に噛みつきたくなります」
「……」
コイツの発想、何故かたまに怖い…。
噛みつきたくなる腕とやらに自らのそれを絡めて、名物の庭園へ足を踏み入れた。
色とりどりの花畑は確かにすごかった。
残念ながら男としての感想はそれまでだ。
隣にいる小さなヤツが喜んでうっとり見ているのを見て、長旅も悪かねえな、と思う他ない。
花と女を並べて愛でる、なんていうのを今まで理解してなかったが、感情豊かに情景を味わう女は美しいと人生初めて思った。
園内の中心の池では、鯉が飼われている。
透明度の高い水中に浮かぶでかい魚は、宇宙にいる生き物のようで不思議に思える。
10円ばかしの餌を買って、るると口を開ける魚を眺めて面白がった。
「繋心さん、楽しいですか?」
「お前が楽しそうでよかったよ」
「それは楽しんでませんね?」
「楽しんでるからいーんだよ」
「よくありません!」
と、るるが珍しく声を荒げたところで、雷が鳴る。
「うお…!?」
あまりのタイミングの良さに情けない声が出る。
「大変…!降ってき…」
るるが言うのが早いか、降りだすのが早いか……
それはもうわかりきっていたことで。
滝のような雨が水を打つ。