第30章 【番外編】見ている景色
明日、休日が重なったというのに、コイツはどこに行こうとも言ってこない。
それは楽でもあったが、我慢させてるのかふと不安にさせる。
「どこにいても、一緒なら楽しいですよ」
なんて上手いこと言われてかわされたりもした。
情けないながらも久々に女子力の塊・東峰に連絡を取る。
『あまり自信ないですが、この時期は此処の公園の紫陽花は有名です』
ホームページとクチコミレビューが投稿されているURLを貼り付けられている。
『コンビニに置いてる『このへんウォーカー』にも載ってます』
と追伸で来た。
コイツはなんのためにそういうものを逐一チェックしてるんだ?とふと疑問が生まれる。
ざっくり礼を言うと、ご武運を、と短い返信とスタンプがきた。
「るる、紫陽花、見に行くか?」
「ほんとに!?」
と顔をキラキラさせて言う。
「やっぱ出掛けたいんじゃねーか。
我慢してたのか?」
「ううん、繋心さんが誘ってくれるのが嬉しいんですよ」
と答えられた。
それは嬉しくもあり、情けなくもあり、申し訳なくもあり……。
「たまには我が儘も言えよ?」
「いつもたくさん言ってますよ?」
「どこがだ。
あれ食べたいとかそこ行きたいとか、これ買いたいとか、お前から聞いたことねえよ」
「毎日言ってますよ、えっちしよって」
「……」
それは我が儘だったのだろうか。
だとしたらどれだけ可愛いものか…。
まだ少し湿った洗い立ての髪を指に絡ませる。
吸い付くような白い肌に意図せず触れると、熱が上がったように脈がとくとくする。
「シよか?」
「っ!」
自分から言うくせに俺から言うと恥ずかしそうにする。
その初々しい反応がなんとも言えない。
熱のこもった目で改めて見上げられる。
こくっと小さく頷かれると、幕を開けたように濃厚な夜が始まる。
シーツに広がる髪は、樹木の根のように神秘的だった。