• テキストサイズ

迷い道クレシェンド【HQ】【裏】

第3章 背中と甘酒


確か前に応急処置の勉強をした。
ビニール袋を探すとすぐ彼女の口に宛がう。
「はっ、はっ……」
「るる、吐いて、ゆっくり…」
ふう、と涙目だが落ち着いていく。

俺を拒絶したわけじゃない…?

妙な不安と期待が入り交じった気持ちになる。
手を握ると、キンキンに冷えた指が握り返してくる。
「は、ぁっ、ご、ごめんなさ、ごめんなさい……」
泣きながらるるはごめんなさいと繰り返し言った。
ぜーぜーと荒い呼吸をしている。
部屋に置いてあるスポドリを少し飲ませると、やっと一息つけたようだ。
「繋心さん……」
「ああ、ここにいる」
「き、嫌わないで……約束の日には出ていきますから…お願い、お願いですっ」
「んなのこっちの台詞だ…!いつまでもうちにいろ!
説明がめんどいとか、どうでもいい!」
正面から抱き締めると、大人しくそれに従い、首に腕を回される。

「るる、好きだ」
「…っ」
「最初は、すまないが下心はあった…でも今は違う。
誰よりお前を幸せにしてやりてえ」
真剣な口調でゆっくりそう言うと、納得したようにるるは頷く。

だが、その後に、るるはバスタオルを取り、ゆっくり俺に背中を向けた。

「繋心さん、私、穢いんです、それでも、良いですか?」

震える声で見せてくれた背中には、無数の傷痕。
痛々しいそれは、深い切り傷と、火傷の痕にも見えた。
もしくは、鞭のような、痣…?
いずれにしても、日常で付くような物ではない。
「私、家の人に…あの、信じなくてもいいです、家の人にこういうの、ずっと、ずっと……」
また呼吸が荒くなっていく。
何があったか詳しくはわからないが、これでやっと、年不相応な性に対する余裕さが理解できた。
「凄く気持ち悪くて、怖くて……。
でもシないと、ちゃんとやらないと、怒られるの……、痛くて…っ!!
でも繋心さんに触られるの、キスされるの、気持ちよくて……初めてで……」
途中から涙ぐんでよく聞こえなかった。
「ああ、大丈夫、俺が守ってやる…!」
頬を両手で包み、今までよりずっと慎重にキスをする。
涙目のるるはいつもより幼く、そして愛しい。
止められそうにない。
くちゅっと水の絡み合う音が響く。
脳内でそれが木霊して胸が締め付けられる。
「あ、ひやぁっ」
/ 708ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp