第20章 甘い水
「……っ」
「命より大事なモンなんだ。
還してもらう。
その代わり、約束通りこの話はココで終わらせてやる」
森井は制服を着せる俺を黙って見ていた。
「るる…立てるか?」
「あ…繋心さ…ん」
森井は完全に正気に戻っていた。
まあ、ただの気の迷いだろう。
本当は1発くらい殴っておきたい程だったが、何か飲ませた以外はなにもしていないだろう。
忌々しくも『お守り』用に及川が付けた傷は、立派にその役目を果たした。
(コンプレックスっつーもんも、大変だよな…)
そういや及川も、天才という言葉にそれを抱いていた。
時にそれは自分を守る壁にもなってくれただろうが、常につきまとう攻撃でもある。
目の当たりにして、痛感する。
ぼんやり、そんなことを考えながら軽い身体を担いだ。