第7章 怪しいお薬
「…ハンジ…」
「薬を飲んだ理由なら、直接聞いて。
私からは言えない」
「知っているなら教えてくれ…頼む」
「だめだ。言えないよ」
『泣いてたのに』
その一言に、あのエルヴィンが狼狽えている。
「エルヴィン、落ち着いて。
ナナバには会ったんだよね?
その時の状態を、教えてくれないかな」
「あ、あぁ…」
団長らしい団長が成りを潜めたエルヴィン相手に、うまく誘導する形でナナバの様子を聞き出していく。
「…うん、ラットの時と大体同じだ。
これなら取り敢えずは先生いなくても…
よし、それじゃ行こう」
走らせていたペンを置くと手帳と共にポケットへ。
すっかりと落ちついたエルヴィンを確認すれば、救急箱を抱え、モブリットへと頷く。
「薬のことは私の次に知ってる。
エルヴィン、連れて行くけどいいよね」
「そうして貰えるなら心強い。
すまないが、頼まれてくれるか?」
「団長が、その、よろしければ…」
薬によってナナバは興奮状態にある。しかも性的興奮が高まっている状態だ。
そんな彼女に会うのは同僚として、男として、まずいのではないか…
ましてや恋人であるエルヴィンも一緒となれば、躊躇するのは当然の事。
「気遣いには感謝する。
君には迷惑をかけるが…頼まれてくれ」
こう団長から言われれば、Noとは言えまい。
今は非常事態…そう自分に言い聞かせたモブリットは表情を引き締め頷いた。
「ナナバ」
「…ん…」
「ナナバ、大丈夫かい?」
「エルヴィン、ハンジ…」
ナナバの視界に、覗きこむ二人の顔がぼんやりと映し出される。
その後方、閉じた扉へ張り付くように立つのはモブリット。
「モブリットまで…皆、ごめんね」
「具合はどう?」
「だいじょぶ…それより、記録…」
そろそろと起き上がろうとするナナバを、ハンジは慌てて制する。
「無理しないで、横になったままでいいよ。
…君って律儀だね、困ったな」
「だって約束、したし…」
(記録…約束…)
約束、はまぁいい。だが記録とは?
(まさかこんな状態で、まだ何かするのか?)
はだけた布団をかけ直しつつ、エルヴィンは視線だけでハンジに問う。