第7章 怪しいお薬
「薬を飲んでどうなるか、記録をとる…
そんな話をしたんだ」
「私が、頼んだ…交換…ううん、結局騙したんだ。どうしても薬が欲しくて。ハンジは最後まで、頷かなかったよ…」
「ナナバ…」
そんな二人に対しエルヴィンは無言で椅子を引くと、ハンジを座らせる。
「約束なら、守らねばな」
頷き、ハンジは努めてゆっくりとかつ当たり障りのない単語を選び質問をする。
発熱のお陰か途切れ途切れではあるが、ナナバもきちんと応える。
これを幾度か繰り返し、ハンジはふとペンを止めた。
「エルヴィンに聞いたのと同じだね。
これなら、長くても二三日で抜けきるはず」
「そうか、よかった」
「あ、食事はちゃんととってね。
食欲ないかもしれないけど……」
「ナナバ、夕食は?」
エルヴィンの問いかけに、ナナバは無言で首をふる。
「食べられそう?
無理なら、スープとか果物とかは?」
「果物が、あれば…少しだけ…」
「よし、何か探してこよう。すぐに戻る」
そう言いながら振り返れば、直立不動のモブリットと目があった。
「団長、私が行きます」
「いや、有り難いが…
あまりこきつかっては悪い」
「そんなことありません。
…側にいてあげてください」
それだけ言うと、返事を待たずに部屋を出るモブリット。
世話焼きの彼のことだ、すぐによい物を見繕ってきてくれるだろう。
「丁度いい、ナナバちょっと」
「…?」
近付いたハンジはナナバへそっと耳打ちする。
何事か囁かれたナナバはハンジを横目でちらと見、赤い頬をさらに赤くした。
「……どう?」
「それは、その…思うけど、我慢してる…
したかったのは、それじゃないから」
「そっか。君は強いね」
おいてけぼりのエルヴィンはそんな二人の様子を見守るが、ふと目があったナナバには気まずそうに視線を逸らされてしまう。
「ハンジ、何か問題か…?」
「あぁ、いや、何でもないよ。ごめん。
…ナナバって本当にエルヴィンのこと」
『………だね』
囁くように付け足された一言はエルヴィンには聞こえない。
そして、その一言を受け取ったナナバの頬は、さらに赤みを増したのだった。