第7章 怪しいお薬
コンコン
『は~い、開いてるよ~』
よくよく見慣れた、決して厚くはない扉越しに快活な声が聞こえた。
「ハンジ」
エルヴィンは扉を開けつつ、目当ての人物を呼ぶ。
「珍しいね!こんな時間にどうした、の…」
ここまで言いかけて、突然、弾かれるように席を立つ。そのまま棚へと駆け寄り救急箱を手に取れば、時間外労働にいそしむ彼へと声を張り上げた。
「モブリット!悪いけどすぐに医務室へ行って先生呼んできて!私は先に行ってるから!」
「へ!?は、はい!分かりました!」
そのまま、廊下を走り出すハンジ。
「待て!」
「は!?
何言ってるんだよ緊急事態だろ!?」
「待て。そして戻れ」
「聞いてられない!」
「ハンジ、これは命令だ」
やや硬度の増した声に、ハンジは苦々しい表情のまま廊下を引き返す。
「モブリット、君もだ。
まずは落ち着きたまえ」
「は、はい…」
「エルヴィン!
ナナバは大丈夫なんだろうな!?」
「!?」
ハンジとモブリット。ミケとナナバ。
上官のタイプは違えど似たようなポジションにいる彼は、突然出てきた名前に驚く。
「え、どういうことですか…彼女に何が?」
「分からない。けど、エルヴィンが来たってことは、ナナバが来られないってことだ」
ハンジは直ぐ様部屋を出られるよう、開け放たれた扉の一歩内側から動かない。
「ハンジ、何処へ行くつもりだったんだ?」
「そんなのエルヴィンの部屋に決まってるだろ!」
「…そこに居なかったら?」
今まさに渦中の人となりつつあるナナバは、ハンジの言う通りエルヴィンの部屋に居る。
たが…
「私はまだ何も言っていない。
強いていうなら…"命令"はしたが、ね」
あえて強調してやる。
無視してこの場を後にしようものなら、立派な命令違反になる……そう分からせる為に。
「ハンジ、座れ。
モブリット、君も楽にしなさい。
説明はそれから…いや、説明される側か」
「あの薬」
エルヴィンが何事か言い出す前に、ハンジはずばりそのものを言い当てる。
「私が作った、巨人用の薬。
今日それを……ナナバが飲んだんだ」