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まったりの向こう側

第7章 怪しいお薬







一日の業務を終え、自室に戻ってきたエルヴィン。

胸ポケットから小さな鍵を取り出すと、いつもと同じように鍵穴に差し込み、手首を捻る。

(……)

手応えが、ない。

念の為、と鍵穴を正位置に戻し再度鍵をまわす。

二回目も同じ。
やはり手応えがない。

(となると…)

自分よりも先に誰かが開けた、という事だ。
そして、それが出来るのはただ一人。



できるだけ音をたてないよう、ゆっくりと扉を押し開ける。

(…灯りを付けていないのか)

開いた隙間から覗き込む室内は暗く、静寂に包まれている。

(まさか、いない…?)

それはあり得ない。

いくら仕事関係の物が少ないとはいえ、仮にも団長の部屋だ。
セキュリティの点を鑑みれば誰もいない状態で開けっ放しなど…考えられない。

(………)

何とか滑り込めるだけの空間を確保すれば、エルヴィンはそのままするりと扉を潜る。

(よかった…)

ほっと息を吐くエルヴィンの目に映るのは、背を向け横たわるナナバの姿。


「ん、ん…」


夢の中だろうか。
エルヴィンには気付かず、だがほんの少し肩をふるわせる。

枕に沈むのは見慣れた淡く柔らかな金色。部屋に射し込む青白い月光が不思議に混ざりあい、見る人を誘う。

そんな寝姿を視線で撫でながら、エルヴィンは後ろ手に扉を閉め鍵を掛ける。

(我ながら元気なものだ)

鍵を掛けたのは勿論、ソノトキのため。


「ナナバ、ただいま」


小さなランプに明かりを灯しつつエルヴィンが帰室を告げれば、


「お帰り、エルヴィン…」


背を向けたままで応えるナナバ。

すぐに返事があるのはいつも通り。
だが何となく、だるそうな声。


「どうした?」


どこか具合でも悪いのだろうか?

エルヴィンは大股でベッドに近付くと、背中越しにナナバの顔を覗き込む。


「大丈夫かい?」

「…ん、エルヴィン……」

「…?」

「…エル、ヴィン…」


ナナバは覗き込むエルヴィンを横目で捉えると、ゆっくりと寝返りをうつ。


「…お帰り、お疲れ様…」


迎え入れ、労いの言葉をくれる。
そう、いつもと同じ。



はずだった。



ナナバの顔を、正面から見るまでは。




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