第6章 0630
再び訪れたあの店。
店内は、やはり色とりどりのテディベアで溢れかえっている。
だが、お目当てはこの中には…
「おや。何かお探しですかな?」
単刀直入に。
「彼女が言っていた"子"に会わせてほしい」
「……」
ノンフレームの眼鏡を掛けなおし、後ろの棚の扉を開ける。
「お待ちしていましたよ、エルヴィン団長」
生みの親に抱かれ、その"子"が目の前に。
やはり…、勘が当たったな。
「ナナバさんは、随分とこの子を気に入っていらっしゃった」
理由などなかった。
だが、きっといる。そう感じていた。
「来る度に挨拶をしてくれて、
私と"三人"で色々な事を話しました」
「勿論、貴方の事もね。
楽しげに話して聞かせてくれましたよ」
可愛らしい熊達の親に相応しい柔和な笑顔を浮かべ、店主が値札を切る。
それは、売約済だという証。
「今日お二人でいらっしゃると聞いて、おめかしの為にね、少々…暇をあげていたんです」
「しかし、悪いことをしてしまった。まるで嘘をつくような」
ため息を吐きながらも丁寧に薄布で包み、そのまますっぽりと袋に入れる。
「いや…、嘘ではない。
今日、今ここで、家が決まったんです」
「えぇ、えぇ。そうですとも」
「優しい女の子…ずっとずっと、この子を大事にしてくれます。貴方もそう思うでしょう?」
「…間違いない。安心してください」
丁寧に包まれたその見た目はとても簡素で、可愛らしい熊のぬいぐるみが入っているとは誰も思わないだろう。
だが、それが最良だ。
実にナナバの好みそうな…この店主はよくわかっているな。それだけ親しい間柄なのだろう。
…少し、妬けてしまう。
「しかしナナバは、
一体どんな話をしたのか……」
「それは私からは言えません」
聞いても、教えてはくれないだろうな。
だが……
疑う事など、何もない。
むしろとても嬉しいと思う。
ただそれと同時に…少し、くすぐったいんだ。
君が誰かに俺の事を話している。
一緒にいない時にも、俺の事を考えてくれているという、その事が。