第6章 0630
売れた、のか。
いやそれはごく当たり前のこと。
何しろ店にいた熊達はすべて売り物だ。
勿論、ナナバにはこんな事言えないが。
「はぁ……」
店を出て、一歩、二歩。
三歩目で立ち止まる。
「ごめん、エルヴィン…」
「何がだい?君が謝る事はないじゃないか」
きっと『無駄足を踏ませてしまった』そう思っているんだろう。
こうして君と休日に出かける。
そこに無駄なんてないのに、また気を使っている。
一つ、話題を変えてみようか。
「ナナバ。最近新しい喫茶店ができたらしいんだが、聞いたことはあるかな?」
「ううん」
「そこの目玉はケーキらしい。とても可愛らしいデコレーションがしてあるそうでね」
「へぇ…。
エルヴィンは何でも知ってるんだね」
『さすが』
そう言う君の表情はさっきよりも明るい。
甘いもの、好きだったね?
ちゃんと覚えているよ。
だから、もう一押し。
「食べてみたい。だが…。兎に角可愛らしい見た目があまりにもミスマッチなんだ、この私の見た目とは」
じっと見つめた後、堪らず噴出して『ごめん』そう謝る君は、もういつもの柔らかい雰囲気を纏っている。
…落ち着いたかな?
「付き合ってくれないか、ナナバ」
「うん!」
そっと手を差し出す。
君はほんの少し照れながら、ゆっくりと繋いでくれる。
ありがとう。
また君と距離を縮めることができた。