第1章 君の初めてで慰めて
…ナナバが深く俯けば、一つ、絨毯に小さな染みが出来る。
程なくして染みは二つ三つと増えていき、次々とその場所の色を変えていく。
「ぁ、そんな……。はっ…、んっ、
もう…っ、…なんで、そんなこと!」
堰を切ったように泣き出したナナバに、流石のエルヴィンも慌てて手を引っ込めた。
「すまない、無理やりすぎたか…?」
ほんの少し乱れたシャツを戻してやりながら、出来るだけ優しく問う。
「っ、ちが…違う……、っ、ふっ」
しゃくり上げながら否定するのが精一杯。
涙が落ちるのを気にしてか顔をあげるが、大粒のそれは止めどなく溢れ次々とナナバの頬を濡らしていく。
「ごめ、…なさいっ、ごめんなさい…」
「謝るのは私の方だ。すまなかった」
この部屋に椅子は一つ。ベッドサイドにある文机に備え付けられたものだけ。
エルヴィンは椅子を引くとナナバを座らせ、自分はベッドへと腰掛ける。
「…ひくっ、ん。…ぐすっ」
「………」
向かい合ってはいるが、その距離は椅子を引く前よりも遠い。
そして、ナナバをベッドに座らせなかったのはこれ以上不安にさせないため。
…それが、今この部屋でできる、精一杯だった。