第5章 check the answer
『まさかそんな』と、もごもごと口の中だけでつぶやく。
(ウソ、でしょ?だって今までそんな…)
エルヴィン以外とは、いわゆる"男女の関係"になったことがない。
告白されたことはある。付き合ったこともある。だが大抵『男を相手にしてるみたいだ』等と言われては、別れを切り出されて終わる。
(別にそれに不満があるわけじゃないんだ。自覚してるから、ね)
(でも、どうしよう…)
もしエルヴィンにそう言われたら?
今までと同じように『そっか』ですませられるだろうか?
「ナナバ…?」
「あの……」
「ん?」
何事か言い出そうとするナナバを、エルヴィンは静かに待つ。その眼差しはどこまでも優しく、ざわめいていた気持ちが不思議と落ち着いていった。
(大丈夫、エルヴィンはそんな事言わない)
(それよりも…今はこっちのが問題、かな)
「エルヴィン…」
「うん」
「実はその、私一つも持ってないから、暫くはこのままなんだ」
ナナバはエルヴィンの胸から手をひき、そのまま自身の胸元へ。
(それにこれじゃ……)
(はぁ…やっぱり、無いんだよね)
この無さっぷりを自覚すればする程に、それを買う行為そのものを少々恥ずかしく感じてしまう。
何しろ、どうやって選んだらいいかもわからない。
「困ったなぁ……」
ため息と共に呟かれた一言。
だがしかし、眉尻を下げるナナバとは全くの真逆、エルヴィンは余裕の笑みでぽんぽんと彼女の頭を撫でる。
「ナナバ、心配はいらないよ」
そう言ったエルヴィンは、クローゼットから何かを取り出した。
(あ。あれ…)
さっきの着替えで目にした、不思議な物体。
何が不思議かは…その見た目に理由があった。
「君にこれを」
満面の笑みのエルヴィンに抱えられているのは布の袋。
それは薄桃色をしており、大きさは一抱え程ある。重さは、見た目の大きさよりも幾分か軽そうだ。
そして袋の口元には、可愛らしく赤いリボンが結ばれていた。