第5章 check the answer
ナナバはクローゼットから出した服をベッドへと置く。
エルヴィンは、文机へと。
そして二人は背中合わせに立ち、それぞれ服を手に取った。
情事後の着替えは決まって背中合わせ。
お互いにしっかりと支度が整うまで顔を合わせることはない。
これは、いつの間にか出来た暗黙の了解。二人だけのルールであった。
だがやはり、エルヴィンは抜け目ない。
机上の伏せられたそれを立てれば、静かにそこから覗き込む。
(鏡越しの姿もまた、趣があっていい…)
彼の視線の先、その小さな世界には着替え中のナナバの後ろ姿が映っていた。
と、彼女がシャツを羽織りボタンに手をかけたタイミングを見計らい、エルヴィンはすかさず、だが違和感なく口を開く。
「ナナバ、一つ聞きたいことがある。とても重要な案件だ」
エルヴィンもまたシャツを羽織り、同時に纏う空気を塗り替え振り返る。
そして、ナナバの後ろ姿を"団長"の眼差しで捉えた。
「…何でしょう」
張りつめた空気を即座に感じ取り、ナナバもまた振り返る。
そして"兵士"の眼差しをもって受け止めた。
二人の視線がぶつかったのは、どちらも丁度身支度が整った瞬間。
先に口を開いたのは、エルヴィン。
「前々から気になっていた」
「はい」
「君がどういった基準で下着を選んでいるのか、教えてほしい」
「………は?」
言っている事との整合性が取れていない程に、エルヴィンの表情は真剣だ。
気付けば『何言ってるの?このオジサン…』と喉元までせり上がってきていた。
ナナバはその一言をどうにか呑み込むと、ひくつく口元はそのままに質問で返す。
「どうしてまた…、そんなショーモナイ事を気にしてらっしゃるんですか?」
「いや、そんなに怖い顔をしないでくれ。君の可愛い顔が台無しじゃないか」
「誰がさせてるんですか…? ダ、レ、ガ!」
ナナバは素早くエルヴィンの手の甲をつまむと、そのまま綺麗に捻り上げる。
「…っ、待ってくれ。
きちんとした理由が、ある!」
「そうですか。では、このままどうぞ」
「いや、待っ、痛い…。涙でそう……」
そう訴えるエルヴィンの声は頼りなく、語尾はもう消え入りそうな程に小さかった。