第1章 君の初めてで慰めて
エルヴィンはナナバの手を引き、無言で歩いていた。
一抹の不安を感じるものの、ナナバもまた無言でエルヴィンについて歩く。
二人が行き着いた先は最高ランクのホテル。
その外観は貴族の館と見紛うほどに豪奢で、ナナバは見上げたまま思わず感嘆のため息を漏らす。
「凄いですね」
「あぁ」
(驚くとは思っていたが…)
エルヴィンは心底困り果てていた。
手を握っている彼女はホテルの豪華さに驚き、連れてこられた意味を一瞬にして忘れてしまっている。
「ナナバ」
「あ、はい。ごめんなさい、凄すぎて…一生来られるような場所じゃないから」
「今から、ここに泊まるんだよ」
エルヴィンはすかさずナナバを抱き寄せる。
「二人で、ね」
腕の中に閉じ込めた彼女へむかい、そう教えてやる。
「あ、いや、その…」
「それとも、ここでするかい?」
「しません!」
「よかった。流石にこの時間とはいえ、人通りがあるからね」
エルヴィンの一言にぴくっと肩を揺らしたナナバは、彼の腕の中からそっと辺りを伺う。
…極々まばらではあるが人影が見えた。
そして、その影は時折二人をちらと見る。
「!!!、は、早く入りましょう…!早く!」
今度はナナバがエルヴィンの手を引く番だった。見られていた恥ずかしさを誤魔化すように、きつく握りしめて。
さらにナナバは、兎に角早くこの場から離れたいと思えば無意識のうちに足早になる。
(随分と積極的だが…、きっと違う意味でだろうな)
そんな、慌てながら手を引く彼女に連れられ、エルヴィンはその重厚な扉を潜るのだった。