第1章 君の初めてで慰めて
「ところで…、この後の予定は?」
「え…?」
食事が終わり、酒を楽しみつつ、もうそろそろ日付も変わろうかという時間。
目の前のこれを飲み干せば、そろそろ…
と、お開きが近いであろうと予想していたナナバへ、エルヴィンからの意外な問いかけ。
(この後?)
ナナバは意味がわからず、目を丸くしたままエルヴィンを見つめる。
「あの、団長?もうそろそろ時間が」
今は二人、裏路地にあるこじんまりとしたバーで静かに酒を楽しんでいるところだ。
しかし、ここに来てからもそこそこの時間が経っていた。…ここからさらに、この後、とは。
「今日はとことん、だろう?」
「そうでしたね。ですが、時間も時間ですし…開いている店がなくなるのでは?」
「あぁ、それなら心配はいらないよ」
カウンターに並んで座る二人。
エルヴィンはナナバの肩に手を添えると、静かに距離を詰め、そっと耳打ちする。
「…朝まで、心配はいらない」
「!?」
驚くナナバとは対照的に、エルヴィンは余裕をたたえて微笑む。
「さ、行こうか」
馴染みなのだろうか、エルヴィンは初老のバーテンダーへ軽く頷いてみせるとそのまま店を出る。
その左手で、ナナバの手をとり、指を絡め、優しく引きながら。
二人を見送った店の扉が閉まると、カランと小さくベルが鳴る。
柔らかなその音は、二人の影が徐々に遠ざかっていくように、ゆっくりと夜闇に溶けていった。