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まったりの向こう側

第2章 Please give me...



(…ん?)


数日ぶりの自室。

いつもと変わらぬはずの場所。

だがしかし、僅かに感じる違和感に鍵を持つ手がぴたりと動きを止める。



だが…

その違和感には、不思議と不快感はない。



(……)

(そうか、使ってくれたか)



安堵か嬉しさか、強ばっていたエルヴィンの肩から力が抜ける。

と、扉を開けた先、ちらと視界の端に引かれた椅子が入り込んだ。



(……っ、あれは…)



椅子の背に掛かるそれに感じるのは、若干の焦り。

何しろ、自分が想像していた範囲外のことが目の前で起こっているのだ。

ゆっくりとベッドに視線を流せば、そこにはいつぞや見た緩やかな曲線が。

そしてそれは、穏やかな寝息にあわせて小さく上下し、横たわる人物が熟睡しているのを教えてくれる。



「ナナバ…」



呼んだわけではない。

無意識に、思わず口をついて出た。

だから、



「…ん、エルヴィン…?」

「!」



まさか反応があろうなどとは、思いもしなかった。

しかし、驚きながらも、足音を立てないようエルヴィンはゆっくりと一歩を踏み出す。

すると、近づく彼に合わせるかのようにナナバの瞼が徐々に開かれていく。



「すまない、起こしてしまったかな」

「…ん、大丈夫…」



彼女のぼんやりとした視界に、暗闇でなお美しく映える金色が映る。



「エルヴィンの髪、綺麗だよね…」

「そうかい?ありがとう」



ナナバは触れようと、そっと手を伸ばす。

そんな彼女へ、エルヴィンは静かに、だがほんの少し歩幅を広げて近づく。



「羨ましい…。私、ちょっと色薄いし…」

「そんなことはない。淡い金色で、とても綺麗だよ」

ベッドへと腰掛ければ、ナナバがそっと彼の前髪に指を通す。

エルヴィンも同じように彼女の前髪を撫でる。



「ありがと…。エルヴィンに、言われると……」


数度すいたかと思えば、ナナバの指先がエルヴィンの耳に触れる。

と、そこで彼女の手はぴたりと動きを止めた。


「ね、エルヴィン…」

「うん?」

「…ほら、もう寝ないと…。明日も、早いでしょ…?」


ナナバはとろんとした目のまま微笑む。

そしてほんの少し布団を捲れば、自分の隣を軽く叩いてエルヴィンを促した。


「いいのかい…?」

「うん…」







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