第2章 Please give me...
時計の短針が頂点から右に、ほんの少しだけ傾いた頃合い。
そこには月明かりを横顔に受け、無言で佇む人影があった。
(流石に、寝ているな)
エルヴィンの目の前には女子棟。
空色がぶれることなく見つめる先には、しっかりとカーテンの引かれた窓。
当然、その窓は閉まっている。
(………)
(さて、忘れ物…。ふむ)
彼が踵を返すと、月明かりを含んだ鮮やかな金色がさらりと軌跡を描く。
(この時間なら…)
(いっそのこと、一眠りするか)
懐中時計を見つめていた思案顔のまま、ゆっくりと振り返る。
会いたい人物は、今頃静かに寝息をたてているだろう。
はたまた、可愛らしい寝言の一つも漏れているかもしれない。
ほんの少し、口元に笑みが浮かぶ。
「おやすみ」
(…夢で会えたらなら、嬉しいよ)
彼は、今度こそ振り返らずに真っ直ぐと歩き出した。