第2章 Please give me...
静かに足を踏み入れたエルヴィンの自室。
当然、訪れるのは始めてであったが…
ナナバは迷わず窓辺へと歩み寄れば、カーテンを開け、月明かりを取り込む。
(すごく綺麗にしてある…)
さすがと言うべきか、団長として当然というべきか。
見渡す室内は整理整頓が行き届き、埃の一つも見当たらない。
そして、居るべき"もう一人"がいないことに気付く。
(そうだ、確か…"エルヴィン"はミケの所だっけ)
忠実な秘書といえど、流石に犬は連れて行けない。よって、一番無難にミケ預かりとなったのだ。
("ミケ"と"エルヴィン"にベッド占領されてるかもね)
(…さてと、せっかくだし)
(これかな?…お、正解)
ナナバは徐にクローゼットを開けた。
(んっと…、あ、あった)
そこから取り出したのは一枚のシャツ。
当然、彼女の物ではない。
ナナバは着ていたものを脱ぐと、取り出したそれに袖を通す。
「やっぱり、大きい…」
彼女は決して小さくはなく、むしろ女性としては大きい方だろう。…無論、身長のことである。
そんな彼女だが、さすがに男には敵わない。ましてや兵団内でも高身長のエルヴィンなら尚のこと。
今着ている彼のシャツは一回り程大きいようで、ボタンを全て留めてもまだ首回りに余裕があった。
(袖、少し長いかな)
袖口からちょこんと出ている指先を眺めながら、両腕を真横に大きく伸ばしてみる。
(そう言えば…エルヴィンが洗濯してるとこ、見たことないや)
想像するには中々に難しい場面をなんとか思い描き、くすくすと笑う。
(洗剤はきっちり量るね、絶対)
(洗う時は案外ソフトタッチかも?)
(全部干し終われば、両手を腰に当てて仁王立ちで眺める…)
「ぷっ」
堪えきれずに、小さな笑い声が一つ、部屋に響いた。