第2章 Please give me...
男子棟、最上階。
角部屋の、扉前。
古兵の彼女は、些か…迷っていた。
(これ、ホントにいいのかな…)
ナナバの手のひらに乗っているのは、先程も持っていた小さな鍵。
『いない間、私の部屋は好きに使ってくれていいからね』
『いや、居ても居なくても、だな』
『あぁ、それから…、鍵は返さなくていい。
…君の分だ』
出かける日の朝、そう言ってエルヴィンがナナバに手渡したもの。
(いいような、悪いような…)
ちらと見た先は、鍵穴。
それは何も言わず、ただただ静かに、片割れを待ち続けている。
(………はぁ。やっぱり帰ろう、かな)
だが、エルヴィンの自室、プライベートな空間に興味が無いわけではない。
(まだ帰って来ないし、今日だけ…)
(うん……、今日だけ、だから)
そう思えば、そろそろと鍵穴に挿し込んでいく。
(あ、勿論、世間一般で言う"悪い事"なんてしないし!)
ナナバは今まさに、世間一般で言う"大胆な事"をしようとしているのだが…
それには気付かず、自分の恥ずかしさを自分で誤魔化すので精一杯。
鍵を差し込み
息を詰め
ゆっくりとまわす
小さくカチリと音がすれば、目の前の扉は何の抵抗もなくナナバを室内へと招き入れた。