第2章 Please give me...
(あぁ、気持ちよかった…)
夕涼みにはもってこいの夜。
湯上がりのナナバは、ぷらぷらと散歩する。
月明かりの中、何も考えず、何処に向かうでもなく、ただただ歩いていた。
…はずだった。
(何で、来ちゃったかな)
いつの間にやら辿り着いていた、この場所。
ここからは男子棟のずらりと並んだ窓が一望できる。
そのうちの一つ、カーテンのひかれた角部屋の窓。
そこに、ナナバの視線は吸い寄せられた。
「エルヴィン…」
無意識に名を呼ぶ。
が、部屋の主は不在だ。
ナナバの声が届いたとて、返事は、ない。
「………」
見つめ続けても、会いたい人はそこには居ない。
だが、ナナバは迷うことなく歩き出す。
主のいない、その部屋に向かって。