第14章 たまにはいいだろ?
「本当に広いね」
フルーツサンドを飲み込み頷いたエルヴィンに紅茶を手渡す。
「…人がいない?」
「あ、考えてること分かった?」
そう、こんなに広い原っぱ、じゃなかった公園なのに他に誰もいない。とどまる人はおろか、通りかかる人もいない。
エルヴィンと私とあの子の三人だけ。
「こんなにいい天気で、緑もきれいで、芝生もふかふかなのに」
「でも、ゆっくりできるだろ?」
「そうだね」
そうしてまたバスケットに手を伸ばし、他愛のない会話と共にサンドイッチを頬張る。時々紅茶を飲み、ミートボールやサラダをつまんではまた他愛のない会話を繰り返す。
なんて穏やかな時間。
幸せな、時間。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。
どう?お口にあいましたか?」
「あぁ、とても。美味しかったよ。
それに俺の好きなものばかり。
有り難う、ナナバ」
「どういたしまして」
それにしても、本当に美味しくて食べ過ぎてしまった…とお腹を擦るエルヴィン。私も一緒に擦ってみる。
「こらこら…」
「だめ?」
「だめじゃないが、少し恥ずかしいな」
細められた空色とほんのり染まる目尻に、ちょっとだけ顔を出すもう一人の私。
ほら、もっと擦ってみたら?
お腹だけじゃなくてもっと下の…
「エルヴィン」
「ん?なんだい?」
「なにか持ってくればよかったね。
体を動かせるようなもの」
例えばボールとか。大の大人がボールを蹴りあうっていうのも、想像するとちょっとだけおかしいけど。
そう半ば無理矢理口に出して頭をまっさらにする。だめだよ、いくらなんでもこんな時間にこんな場所で…
「…運動…」
ぽつりと呟いたかと思えば、エルヴィンは擦っていた左手で同じように擦っていた私の右手をぎゅっと握った。
「しようか、運動」
「え、うん?
うん、いいよ。なにす」
る?と言い終える前に視界がぐるりと流れ、背中はピクニックシート越しに柔らかな芝生へと沈む。それから、見えているのはエルヴィン。
…エルヴィン、だけ。
「ん、んんっ、ぅむっ」
「…ちゅ、ぅん、ナナバ…」
キス。
私、なんで、こんなことしてるの?