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まったりの向こう側

第14章 たまにはいいだろ?


「ナナバ、これ膝に乗せられるかい?」

厩舎でお互いの愛馬の準備のため、背を向けあった瞬間だった。

「これ?」

振り返って見たのは、バスケットを片手で顔の高さまで持ち上げ横顔で私を見ているエルヴィンの後姿。

「? うん、大丈夫だよ」

そう、大丈夫。ずっと手でぶら下げながら持つのはちょっと大変かもしれないけど、膝の上なら。

「そうか、よし。
 だったら君の相棒は今日は留守番だ」

振り返ったエルヴィンはバスケットを私に差し出す。私は反射的に両腕で抱き抱えるようにして受け取った。うん、やっぱり膝の上なら大丈夫そう。でも何で膝なの?それにこの子は留守番って…

ちょっと待ってて。そう言いながら厩舎を出て行ってしまったエルヴィン。
どうしたんだろうね?と私のパートナーに話しかけるも当の本人はバスケットが気になるのか首を伸ばしては鼻をひくひくさせてる。ふふ、ミケみたいだよ。

「お待たせ」

エルヴィンが持つのは、見たことはあるけど使ったことはないそれ。二人乗り用の鞍。
エルヴィンも使ったことない?ほんの少し探りながら愛馬に鞍をあてがってる。あ、なるほど。確かに私の子じゃ無理だね、だってエルヴィンの子よりも小さい。この鞍が使えるのは…ぱっと思い付くのはエルヴィンとミケくらいかな?体が大きい分、大きな馬に乗っているから。

って、まって、二人用の…

「よし、大丈夫そうだな。
 よろしく頼むよ」

そう主人から頼まれ、任せてください、とばかりに大きく頷く。綺麗な鬣がさらさらと流れる。窓から差し込む太陽の光をうけてきらきらと輝く。風になびくエルヴィンの髪に似てるなって思った。

さらさら、きらきら。

昼間はね、太陽の光を浴びて眩しいくらい。
夜は、月の光を浴びて不思議と柔らかさを感じるんだ。

いつ見ても、何度見ても、飽きない。
見れば必ず、目を奪われる。
何もかもが、奪われる。

今だって…

「ナナバ?」

「ぁっ、ごめん、なに?」

「そろそろ行こうか」

ちょっとトリップしちゃってたよ…
気づいた時には準備万端、エルヴィンとこの子はもう厩舎を出るだけ、になっていた。


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