第14章 たまにはいいだろ?
「んっ、と」
両手で持つバスケット。
これは兵団の備品。どんな理由で、いつ頃、誰が買ったのかは分からない。でも結構使い込まれてるね。というよりも年季が入ってる、と言った方がいいかな?
そんな大先輩の存在を知った時、誰が使うんだろう?間違いなく自分は使わないな。そう思った。
それがまさか…
「ちょっと、作りすぎちゃったかも。
っと」
今日はエルヴィンと遠乗りに行くんだ。久々の外出。それも朝から。
今日、エルヴィンが休日なのは知っていた。ううん、今日だけじゃない。立てられている予定は全部頭に入ってる。忙しそうなときは手伝いたいし、休みの日には一緒にいたい。だから常に頭の中のスケジュールは更新中。
「いい天気…っと」
普段とは違う力の使い方のせいか、それとも思いの外細いハンドルのせいか、もう何度となく持ち直してる。それだけの時間、ここにいる。
本当は約束の時間にはまだ早い。
でも待ちきれないから。
まだかな、まだかな。
今日はどんな格好でくるの?前髪はやっぱりきっちりしてる?髭は…流石にない、かな?
こんな風にあれこれ貴方の事を考える。そんな時間が好き。だからいつも早く来てしまうんだ。
「ナナバ、おはよう」
「おはよう、エルヴィン」
あぁ、やっと会えた。
「持つよ」
そう言っては軽々と私の手からバスケットを取り上げる。
「エルヴィン、重くない?」
「あぁ、重い。楽しみだ」
優しく笑うエルヴィン。だめ、勝手に顔がにやけちゃう。だって、カッコいい。それに楽しみって。エルヴィンが私の作ったものを楽しみって言ってくれた。ね、エルヴィンは魔法使い?どうしてそんなに私を喜ばせてくれるの?
こうして並んで歩いているだけで、楽しみの一言だけで、貴方の事を考えるだけで…こんなにも嬉しい気持ちになれる。幸せだなって思える。
うん、幸せ。