第13章 たまにはいいでしょ?
だらしないと思われないだろうか?
呆れられは、しないだろうか?
「迎えに来てくれて有り難う。
さ、行こう」
せめて今からはしっかりとエスコートしなければ。
左手を伸ばしナナバの右手と手のひらをあわせて繋ぐ。
「エルヴィン、
今日はここでゆっくりしようよ」
「ここで?」
踏み出した一歩に、約束通り遠乗りへ。紳士たれ。そう言っている自分。
引き留めるように添えられた彼女の左手に、まだ明るいうちからスるのだって悪くない。現にここでゆっくりしようと言っているじゃないか、しかもナナバから。"食べてくれ"と言っているようなものだぞ?そう言っている自分。
まるで頭の中に二人の自分がいるようで。
「エルヴィン…?」
「ん、ぁ、いや何でもない。
それよりどうしたんだ、何かあった?」
「ううん、そういうんじゃないけど」
そう言いながらちらりと窓を見る。
「窓、閉めるのを忘れていた」
「私やるよ」
手をほどきながらも『ちょっと待ってて』と離れ際にぎゅっと両手で握ってくれた。これはご褒美だ。間違いない。
ひかれたカーテンはそのままに、器用に窓を閉め鍵をかける。
外、見えなかったな。
そういえば起きてから一度も外を見ていない。どの位寝坊したのか…
「今何時かな」
「それ、は」
まだ少しぼやける視界に何度か瞬きをしながら時計を探す。使い慣れた懐中時計。机の上、いつもの場所に…ない。
「ナナバ、時計を見なかったか?」
「ん…引き出しの、中…」
「有り難う」
引き出し、昨日しまったか?いや、出して寝たはずだ。というか普段引き出しの中にしまうことは滅多にない。掛け時計がないからいつでも時間を確認できるよう常に見える場所、手の届く場所に置くようにしている。
ということは、ナナバがしまった?何故そんなことを…?
いや、それはいい。今何時かを知ることが何よりの急務。遠乗りに行くにしろ俺の部屋で過ごすにしろ(出来れば外に行きたい。最近二人で出掛けられていなかったから。…アレは今夜のお楽しみにする)今何時か知らなければ予定が立てられない。いや、寝坊した俺が気にするのはおかしいか…
「……な」
「エルヴィン…」
「何だ、これは」
取り出したのは見慣れた懐中時計。