第12章 オアシス
「あ、あの…
ごめんなさい!失礼しました!」
弾かれるように部屋から飛び出していく彼女。
一瞬差し込んだ廊下の明かりに、綺麗に纏めあげられた髪とボリュームのあるドレスが、その輪郭を浮かび上がらせた。
(………)
本当に一瞬だったが、それはナナバの脳裏に鮮明に焼き付く。
(綺麗…。暫く忘れられそうにないな)
「はぁ…」
枕に顔を押し付け、エルヴィンには聞こえないよう、ため息を一つ。
(私、こんなに性格悪かったんだ)
来訪者を招き入れたのは、急用だと思ったからじゃない。
(もしかしたらと思ったけど…やっぱりだった)
彼女は、ホールでずっと、エルヴィンに張り付いていた客の一人。
そんな彼女に、エルヴィンを"求める"彼女に、見せ付けてやりたかったのだ。
こんなにもエルヴィンは私を求めてる。
私達の間に貴女の入る場所はないの、と。
「エルヴィン、ごめん…」
もそりと体を起こし、
枯れた声でなんとか詫びるのが、今の精一杯。
「…いや、俺の方こそすまなかった。
ノックも、気付いていたんだよ、本当はね」
扉の鍵を閉め、背を向けたままでエルヴィンも詫びる。
「黙っていれば、そのうち居なくなるだろうと……。でも君が招き入れた瞬間、だったら見せつけてやろう、そう思ってしまったんだ」
「っ、エルヴィン」
「ごめん、すぐにでも止めるべきだったんだ。
でも止めたくなかった…
見せつけて、思い知らせたかった」
俺たちの間には、誰も入り込むなんて出来ない、と。
呟かれた言葉に、ナナバの瞳からぽろりと一粒、透明な雫がこぼれ落ちる。