第12章 オアシス
(ダメだ、考えちゃいけない)
そんな人がいるのも、そんなことが起こるのも、分かりきっていた。
こういう場に来れば、そういう目的の人間が男女問わず寄ってくるということも。
(皆、すごいよね)
本当に遠慮がない。
その証拠に、恋人同伴にも関わらずエルヴィンは常に取り囲まれ、否応なしに人垣の中心におかれていたのだから。
エルヴィンのことは信じている。
万が一など有り得ない、と。
だから、いつの間にか自分の中に渦巻いていたこの黒いナニカは、エルヴィンに悟られてはいけない。
ナナバはきつく、唇を噛む。
「!!」
突然、何の前触れもなく、部屋の明かりが落とされた。
驚いたナナバは、思わず手に持っていたドレスを落としてしまう。
「どうかした?」
部屋の中から外へ、警戒のため一気に感覚を研ぎ澄ます。
「……、エルヴィン…?」
だが、そんなナナバの探るような声には答えず、変わりに薄く笑み、今は見えないその姿を見つめエルヴィンが立ち上がる。