第10章 ありふれた日常を
「泣くな。悪かった」
リヴァイの腕の中、しゃくり上げながらその胸に縋り付く。
(……、こんなもんか…?)
リヴァイはといえば、軽くゆすりながら努めて優しく、小さく丸まった背を撫でてやる。
お手本にしたのは、数歩離れた場所にいるこの子の母親。
そうしていれば、あっという間に泣き声は聞こえなくなった。
「リヴァイはあやすのも上手だね」
「そんなことはいい。
それより……」
ナナバから視線を流して見たのは、今だ放心状態で立ち尽くすエルヴィン。
「おい、しっかりしろ」
「!!」
泣き声こそ聞こえないが、今だ鼻をすする愛娘。
エルヴィンに向けたその背は弱々しく震えている。
「…ひっく、……っ…」
「あ、その……」
「…パ、パ…」
「ごめんよ?」
「……」
「悪気はなかったんだ」
「……ぃ」
「パパを赦し「 パパ きらい! 」
ゆっくりと、スローモーションでその場に頽れエルヴィンは膝をついた。
その姿はまるで色を失ったかのようで。
実際にはそんなことあるはずないが、例えるなら"真っ白"とでもいうのだろう。全く生気が感じられない。
「………おい」
吹っ切れたのか、それとも幼児特有のナニカなのか。
(随分と切り替えが早いじゃねぇか…)
リヴァイには到底分からなかったが、もう既に涙も止まり、今はその柔らかな頬をぷりぷりと膨らませている。
リヴァイはほんの少し距離が出来るよう、抱き直す。
お陰で、怒りつつもその可愛らしい表情がよく見えた。
「怒るな。お前を心配しただけだからな」
「…しんぱい…?」
「お前を好きってことだ」
「そうだね。パパは君の事、大好きだよ」
ナナバからのフォロー。
「…だから、嫌いなんて言うな」
「!!」
そして、リヴァイからまさかのフォロー。