第10章 ありふれた日常を
「エルヴィン?」
ナナバは目の前でひらひらと手を振って見せる。
だが、全く反応を示さない。
完全に思考停止。
「おい、世界で一番可愛い娘が人類最強の男の嫁になる。これのどこに不満がある?」
「……もしかして、お嫁さんはよくても"嫁に出す"のは嫌なのか?だったら婿養子でも構わねぇが」
「リヴァイはこだわりがないのか…
好条件の一つだね」
「だろう?」
「……ハっ!
だ、だめだ!だめ駄目ダメ!
ぜっっったいに、ダメッ!!!!!」
「人類史上稀に見る"優良物件"だぞ」
「確かに」
「待ちなさい!
ママが同意してはダメだろう?!」
「でも、お給料いいし。
人柄も把握してるし」
「あぁ。兵士長…序列二位だからな。
最低限、中の上の生活は保障済だ」
「その上"品行方正"で"気配り上手"。
加えて"容姿端麗"で"床上手"で「ああぁぁあぁあ!?
最後のは何だっ!?!?!?
この子にっ、そんな単語っ、
聞かせるんじゃないっっっ!!!」
エルヴィンは娘の頭をその逞しい胸に押し付ける様に抱き締め直し、くるりと背を向ける。
リヴァイの視界に映らぬように。
リヴァイが視界に映らぬように。
「…パパ?…りばいみえない…」
「全く、油断も隙もないな。
これだからリヴァイは……ぶつぶつ…」
「俺だから、何だ?」
「…ふ、ぇ…」
「あ…いや……」
「…ぁ!あれだ!君は、私達が結婚前には、暇さえあればナナバにちょっかいを出して!今も昔も、ふざけるのは大概にしたまえっ!」
「本気だったらよかったのか?」
「…っ、ひっく…」
「いいわけないだろう!?
全く、本当に何を考えているんだか分からんな!」
「そりゃお前だろうが。
今、ソイツがどうなってるか…見えてないみてえだな?」
「ん?別に何も「…、ぇ…っ、
…りばいぃ…
びぇぇぇええええっ!!!!!」
「な?!え、っえ!?」
「あらら。
ほら、こっちにおいで」
近付く母親に向け、精一杯その手を伸ばす。
ナナバは慣れた手付きでするりと抱き上げたかと思えば、小さく左右に揺すり優しくあやす。
「…っく、ひっく、ぅ、ぅ…」
「驚いちゃったね…。大丈夫、大丈夫だよ。
それじゃ、よろしく」