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まったりの向こう側

第10章 ありふれた日常を





「ママ!」

「ただいま。いい子にしてたかな?」


母親に向け、真っ直ぐと両腕を伸ばす。
それに応える様にふわりと抱き上げる彼女は、慈愛に満ちた穏やかな笑顔。


「忙しいところ悪かったね、リヴァイ。
 助かったよ、ありがとう」

「あぁ」


正直に言えば、リヴァイは名残惜しかった。

この幼子は、自分を恐れない。
それどころか初めて会った時から妙に懐いてくれたのだ。

先程の"特別可愛い"も嘘ではない。
実際に見目がよい。
そして、親でもない自分に警戒もせず笑いかけてくる。

…可愛くないわけがない。

だから、いくらでも相手をしてやれる。

残念ながら、今日はかくれんぼだけになってしまったが。

(…何時もより、短いな…)

そんなことを考えてしまうなど、らしくない。
しかしそれを悟られぬよう、目の前の母親に引き継ぐ。


「相変わらず大人しいもんだ。
 親とは違ってな」

「はは、それは耳に痛い。
 現役の頃は、大分やんちゃもしたからね」

「それは今も変わってないと思うが?
 ……で?お前がここにいるということは」

「うん。ま、お察しの通りだよ。
 でもね、一応一番に報告させて」


『さ、行こうか』
そう言った母親は幼子を抱いたまま、幾つか数えた先の扉に視線を定める。


「お仕事中だからね、『しーっ』だよ?」

「…うん…」


頷き、素直に小声で返事があれば、同じように小さく頷き返してやる。

ほんの少し、高さの違うところで揺れる金色。

母子揃いの、淡い金色。



母親はリヴァイと同様、片腕でしっかりと抱き直すとゆっくり歩を進める。

扉前まで来れば、腕の中の彼女は声を洩らさぬようにと、その小さな唇を小さな両手で覆い隠した。


「ふふ。いい子だね」


期待に満ちた大きな瞳は扉を映し、真剣な眼差しはその先にいる人を捉える。


「さ、いくよ?」



軽く二度、目の前の扉をノックする。



と、それに続きやや硬めの声で『入りたまえ』と入室の許可が。




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