第10章 ありふれた日常を
「………」
廊下の角から、淡い金色がちらちらと見え隠れしている。
「どこ行きやがった…」
そしてそれを追うようにやってくる、どこまでも深い黒。
「……!」
コツコツと迫りくる靴音が耳に届き、その場で小さく蹲る。
見付からぬ様に、捕えられぬ様に。
息をつめ、通り過ぎるのを祈る。
だがそうしたとて、視界の端に映るそれからは意識を逸らすことは出来ない。
無意識に、ほんの少し顔を覗かせた、その瞬間。
「見つけたぞ」
「!!」
小さな、だが精一杯のその努力は泡と消えた。
「今日も俺の勝ちだな…ほら」
片膝をつき、そっと両腕を広げる。
そうすれば彼の目に映る淡い金色は揺れ、戸惑うことなくその温かな場所へと飛び込んでくる。
片腕でしっかりと抱きかかえ静かに立ち上がれば、よく馴染むその重さ。
ふと、腕の中から小さな声で『なんで』と聞こえてきた。
「あ"?」
「なんで、りばいは、かくれんぼじょうずなの?」
「……」
「いつも、みつかっちゃう…」
暫し考え込む。
…フリをする。
この幼子相手のかくれんぼなぞ、かくれんぼにならない。
例えリヴァイでなくとも、見つけ出すのは容易いことだった。
何故なら毎回毎回、ご丁寧にも同じ場所に隠れるから。
今もそう。
だが、そう言ってしまっては幾らなんでも辛辣すぎるというもの。
「お前は…」
大きな垂れ目は可愛らしく、その色は思わず見惚れてしまう程に澄んだ空色。
その綺麗な色が見つめるのは、他とは違う細やかな装飾が彫り込まれた扉。
決して派手ではない。
だが、品のあるその佇まいからは、部屋の主が特別な人である事を誰にでも知らしめていた。
お目当てを見つめるその横顔に、自然と柔らかな声音で語りかけるリヴァイ。
「…特別だからな」
「とくべつ?」
「あぁ。お前は特別可愛い。だからすぐに見つけられる」
「!」
人類最強に軽々と抱き上げられたまま、その頬を真っ赤に染める。
そして…
照れ隠しだろうか?小さな手のひらで心底嬉しそうに、目の前の頬をむにむにと揉みだした。
「随分とご機嫌だな」
「えへへ」
大好きなリヴァイと遊んでもらい、尚且つ可愛いと誉められご満悦な幼子。
「…おや、何だか楽しそうにしてるね」