第8章 1014
目の前には、すべて記入済みの婚姻届。
よかった、本当に。
これで、名実ともに君のパートナーになれたんだね。
「エルヴィン…」
「どうした?」
「して?」
「…!それは…」
まさかの、お誘い。
嫌なわけではない。
驚いただけで、当然したい。
「ナナバ、無理はしていないか?」
「してない。エルヴィンは?…いらない?」
いらないかと問われ、思わず掻き抱いた。
「欲しい、欲しいに決まってるじゃないか…!」
そのまま、強引に口付ける。
瞬間、体をこわばらせるがすぐにほどき、柔らかく抱きしめ返してくれた。
…遠慮はなしだ。
君のその細い腕で、もっときつく抱いて欲しい。
「ん、んんっ…」
もっと、もっと…
痕が残るくらいしてくれ。
「…っ、エルヴィン…」
「…はっ、…ベッドにいこうか」
「待って」
手を引き、一歩踏み出せばすぐに呼び止められる。
待て、とは、今の俺にはなんと酷な言葉か。
「!!」
振り返った瞬間、飛び付くように抱き付いてきた。
「ナナバ!…どうした?」
「エルヴィン…だめ…」
「だめ、とは?」
「このままして」
「?!」
「ここで、このままして。お願い」
「っ、…少し、落ち着きなさい」
らしくない。
普段の冷静沈着な君はどこへいった?
こういう時には恥じらい、頬を染める君はどこへいった?
兎に角、一旦リセットだ。
まるで全身を擦り付けるように抱きつく君。
そんな君を落ち着かせたくて、抱き締め返しては背中を摩る。
(まったく、なんて刺激的な…)
こんなに積極的なことは、今までなかった。
(反応に困るな)
落ち着かせるために、背中を摩る。何度も何度も。
シャツ越しに、君が身に着けている下着と俺の手のひらが擦れる。
ただそれだけのことなのに。
だが、そんな些細な事ですら今の俺には…刺激になるんだ。
(落ち着け…いや、違う)
リセットというのは、正直、自分自身への言葉。
(落ち着かなくては)
そう己に言い聞かせた。