第8章 1014
ナナバの手、その指先は驚くほどに冷たくて。
だが、どうやら断られることはなさそうだ。
よかった…
「手、貸してごらん」
椅子に座る彼女の正面、片膝をついて両手を差し出す。
君が安心できるまで、暖めてあげよう。
「!!」
「エルヴィン…」
気付けば、抱きしめられていた。
「ナナバ…大丈夫か?」
「うん。暫くこうしててもいいかな?」
「勿論だ。
だが、このままでは君が辛いだろうから」
軽く肩を押し、体を離す。
…大丈夫だよ、そんな不安そうな顔をしないでくれ。
あぁ、そうだ。マフラーも外しておこう。
落として汚しでもしたら、明日から泣き暮らさなければならないからな。
「よっ…と、しっかり掴まっていなさい」
とは言っても、念の為、だけどね。
万が一にも君を落としたりなんてしないさ。
「よし、これでいい」
さっきまで君が座っていた椅子に腰かける。
そのまま、横抱きにしていた君は膝の上に。
「ちょっと恥ずかしいな…」
「きっと初めてだからじゃないかな」
「うん……」
君は目を閉じ、体を預けてくれる。
掛かる体重と伝わる体温が、心地良い。
「……」
「……」
「エルヴィン」
「ん?」
片手で腰を抱き、もう片方ではナナバの手を握る。
まだ少し、冷たい。
「もうちょっと、だけ…」
そう言いながら、そっと指を絡めてくる。
いくらでもあげよう。
君が望むもの、望むだけ。
いくらでも……
そう伝えたくて、肩を抱き寄せた。
君の吐息と柔らかな髪が、首元をくすぐる。
近い…
こんなにも近くに、君がいる。
幸せ、とは、きっとこんな瞬間をいうんだろう。
ありがとう。
君がいてくれて、よかった。