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まったりの向こう側

第8章 1014



無かったことになんてしたくない。

でも、なんて言えばいいんだろう。

うまく言葉が出てこなくて…



「……」



エルヴィンに手を掴まれたまま、無言でそれを見つめることしかできない。



「君が欲しい」

「君の答えを、聞かせてくれ」



「……、っ…ぁ、あの」



喉はからからで、途中でどうしてもひっかかる。

だから、やっと出せた声は、声というには程遠かった。



「…、…すまない」



「……、っ、…違うんだよ、
 その、なんて言ったらいいか…」



謝らせたかったわけじゃない。
だから、何か言わないと…

やっと、まともに喋れたのに、
なんで?どうして何も出てこないの…?



「少し座ろうか。さ、ここに」



そう言ってエルヴィンは椅子を引いてくれた。
私は促されるままに座って、机の上のそれを見る。



「俺は君が欲しい。
 だが、無理強いはしたくない」



もし断れば、エルヴィンは何も言わずに引いてくれるんだろうね。

だって、本当に嫌なことはしないから。

でもこれは、嫌じゃない。
嫌なわけがない。



「その、びっくりして。少し待って。ペンが持てそうにないんだ」



握りしめた両手、指先は自分でも驚くほど冷たい。
このままじゃ、間違いなく書き損じてしまう。



「あぁ。さっき触れて驚いた。とても冷たかったからね」



「うん…こんな風になったの初めてで、ちょっとどうしたらいいか…」



「手、貸してごらん」





差し出された両手。

優しい、大きな手。

大好きなエルヴィンの、手。



体が動く。勝手に。



気付いたら…エルヴィンに抱きついてたんだ。




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