第8章 1014
「これは、君が編んでくれたのか?」
包みを解いてみれば、中から出てきたのは手編みとおぼしきマフラー。
「うん。先生に教わりながら、だけどね」
「そうか…
ありがとう、大変だったろう?」
「そんなことないよ。
それより…どう?おかしくない?」
そう言いながら、ゆるく巻いてくれる。
とても暖かい…まるで君に抱きしめられているようだ。おかげで、一歩前に進むことができる。
「嬉しいよ、本当にありがとう」
「ところで…もう一つリクエストしたいんだが、いいかい?」
「勿論。何がご希望です?」
「これだ。ここにサインがほしい」
そう伝えながら、机に広げた書類のある一か所を指差す。
それと同時に、隣で覗き込んでいた君が息をのむのがわかった。
「エルヴィン…、これ……」
声が震えている。
驚きと緊張、だろうか。
そうだね、俺も、今までになく緊張している。
気を抜けば全身震えだしてしまいそうな程に。
でも、君にかっこ悪いところは見せられない。
だから平静を装って。
いつも通りに。
「大丈夫、変な壷を買わせたりなんてしないよ」
「さっきも言った通り、ここに君のサインがほしい。住所は空欄で構わない」
なにしろ、住んでいる場所は同じだ。
建物は違えど同じ兵団敷地内だからね。
そう言えば顔を真っ赤にして俯く。
「そういうこと、じゃない…んだけど」
「では、どういうことか、君の考えを聞かせてくれ」
「…っ」
少し、言い方がきつかったか。
「すまない、怖がらせるつもりはなかったんだ」
「……」
「流石に性急すぎたな」
書類を畳もうと伸ばした手を、つかまれる。
…冷たい、どうしてこんな…
「違っ…、……、っ……」
「ナナバ…」
少しでも暖めてやりたくて、君の手を握り返す。
ほんの少し引かれるが、離さない。
…離してやれるわけがない。