第7章 怪しいお薬
(く…よく聞こえない…)
(当たり前です!とにかくだめですよ、分隊長!帰りましょう、ほら)
「………」
ここは団長室の隣部屋。
ハンジは団長室側の壁に寄りかかり、聞き耳をたてている。
いや寄りかかるどころか、耳から肩から踝まで、半身をべったりとひっつけている。
(モブリット…私達は保護者として、最後まで見届ける義務があるんだよ?それを放棄するっていうのかい?)
(保護者ってなんですか!意味が分からないです!それよりほら、お二人に失礼ですから)
「………」
決して壁が厚いわけではない。
だが、エルヴィンとナナバの会話は漏れ聞こえる程の音量ではない為、どれだけ壁に体重を預けたとて望む程の情報量は得られない。
(これだけ静かだと…あぁ~もうやってるのかな~)
(や!?そういう言い方はやめてください、本当に節操のない…)
「……おい」
あーでもないこーでもない、といつも通りにわいわいと、ただし小声でやり取りするハンジとモブリットを見守る保護者。もとい部屋の主。
「お前たちは…
あいつらの保護者、なのか」
「そうだよ」
「…フ」
「何かおかしいかい?」
「ハンジが父親で、モブリットが母親、
といったところか」
「大正解だ!流石ミケだね」
(え、俺母親ポジ?いやそんな気はしてたけど)
ミケはすっと目を細めると、モブリットに笑いかける。
「よかったな」
「へ?は、はい…ありがとうございます?
(何がだろ…?)」
「父親と母親…夫婦だ」
「ぶっ!?」
「あ、ナナバが出て行ったみたい」
『ほら、エルヴィンのとこ行くよ!』とハンジは半ば強引にモブリットの手を引き、部屋を後にする。
彼が真っ赤な顔をしているが、そんなことはお構いなしだ。
「…こっちはまだまだ、か?」
それは、誰にも分からない。
今は、まだ。