第7章 怪しいお薬
後日談 参 ***大人げない大人***
とある日の昼前。
エルヴィンは足早にナナバの元へと向かっていた。
(今日の確認は無理か…致し方ない)
(ん?あれは……)
道中、視線の先にお目当ての人物と、近くから微かな人の気配を感じた。
(気付いていない、か。よし…)
エルヴィンは近付き、すかさず利き手を伸ばす。
「ナナバ」
「!!…エルヴィン団長!!」
さわさわさわ
「ちょっと、どこ触ってるの!?」(小声)
「うん?お尻だよ、俺専用のね」(小声)
悪びれもなく答えるのはいつもの事。
なでなでなで
そしてエスカレートするのもいつもの事。
「よかった、早く会えて」
「っ、何かお急ぎで?」
「先日頼んでいた資料の件だが、午後出かけることになってしまってね。受け取れないんだ。それを伝えに来た」
もみもみもみ
とうとう、しっかりと揉みだした。こうなったらどちらかが立ち去るまでその手が離れる事はない。
「…っ、でしたら、明日?」
「いや、悪いが"今夜"持ってきてくれないか」
「!」
「…君のお気に入りのボディソープ、用意しておいたよ…」
極めつけは耳元での囁き。
何て事はない。ただ、囁くだけ…だがそれが効果覿面。
何しろエルヴィンの声には抗いがたいナニカがある。
「っ!!資料は後程で、宜しいんですね!?
では失礼します!!」
「あぁ、また」
遠ざかるナナバと入れ違いに、物陰から無言で近付く人影。
鋭く突き刺さる様な視線をその広い背で感じつつ、それでいてエルヴィンは余裕綽々にぐっと口角を上げた。
「君には出来ないだろう?」
「……そう、ですね」
「ふ、勝ったな」
「絶妙な声量でした。お陰で全部聞かされましたから」
「それに、あんな風に触って…見せ付ける為でしょう?団長って案外大人気ないんですね」
団長、つまりは上司への態度としては極めて不適切。だがエルヴィンは咎める変わりに真っ向から受け止め、容赦なく鉾を向ける。
「何とでも言えばいい。
ナナバにとっての一番は、この私だ。
誰にも譲るつもりはない」
その日の夜…
資料と共にたっぷりのお説教を届けられたのは、エルヴィンとナナバ、二人だけが知るところ。
了