第7章 怪しいお薬
「ナナバ!」
「ん?何?」
慌てて立ち上がったエルヴィンを、ドアノブに手をかけたままでナナバが振り返る。
ナナバの頬も、やはり赤い。
だが、どこか満ち足りたような、安心したような、そんな表情で優しく微笑む。
「あ、いや、その……」
ナナバ以上に真っ赤な顔で、柄にもなく言葉を詰まらせるエルヴィンの表情はきっと真逆に見えるだろう。
「…っ、えっと………」
「部屋で待ってていい?」
ナナバは小さな鍵を顔の高さまで上げると、二三度揺らして見せる。
「…!!
あぁ、すぐに終わらせる…すぐにだ」
「くす。無理しないでね。
もしまだあるなら持ってきて。
一緒にやろう?」
私が見ても大丈夫だったら、そう付け加えた。
やはりこういうところはきちっとしている。流石だ…等と感心していれば、ナナバは一歩扉の外へ。
「あ……」
(行ってしまうのか…)
「…また後でね」
ぱたん、と小さく音を立てて閉じられた扉。
「後で……」
先の約束。
それがこんなにも嬉しいのは、やはり相手によるのだろうか。
それとも…
ナナバからエルヴィンへと送られた"言葉"
優しく押し当てられた唇から紡がれた"言葉"
『好き』
『大好き』
「ナナバ…」
はっきりと言葉にしてくれたのは、初めてだった。
(こんなにも、嬉しい、なんて)
例え、そこに音が無かったとしても。
(まずい…)
益々、ナナバを好きになる。
そしてそれ以上に、欲張りになってしまいそうだ。
エルヴィンは指先でそっと、下唇に触れる。
「ありがとう。
本当に、ありがとう…」
そう静かに呟けば、先刻口付けられていた時のように…
また小さく、ぽっと、熱がともった気がした。