第7章 怪しいお薬
不満ともとれるエルヴィンの一言。
聞く人によっては憤慨するかもしれない、だがナナバは怒りも責めもしなかった。
逆に、好きと言えていない事実に自分が悪いと泣いたのだ。
「勘違いだと、そう知ればまた泣いて謝る」
「そうだね…あの子優しいから」
「これ以上泣かせたくはない、謝らせたくもない…だったら、俺が悪くとられる方が何倍もましだ。実際はそうはならなかったが」
部屋に満ちる沈黙と、そこに混じる紅茶の香り。
(俺、か。確実に"素"が出てるね)
普段決して聞くことのない一人称に、ハンジはふと口許が緩む。
手元のカップを傾け円を描くようにくるりとまわしてみれば、冷めた紅茶に、窓の外に広がる青空が映り込んだ。
「ハンジ、ここだけの話にしてくれ」
「……」
「いずれ話す機会が来るかもしれない。だが、今はいい。今はこのままで…」
「了解。エルヴィンがそうしたいなら、私はこれ以上言う事はないよ」
「すまないな」
最後の一口を飲みほすと、ハンジはゆっくりと視線を窓の外へ。
「…エルヴィン」
「何だ?」
「ナナバの事、大好きなんだね」
「あぁ…」
(…いいと思うよ。そんな人間臭いエルヴィンってさ)
「そうだよね~!だってこの間のナナバ…すっごく色っぽかったもん!」
「…?」
「ほら、薬飲んだ翌日だよ。朝お邪魔した時さ!」
「あぁ…何かおかしかったか?」
「ナナバが着てたシャツ、エルヴィンのだろ?」
「!!!」
「思い出した?脚はむき出しで、パンツは穿いてたけど…ノーブラだった。うひひ」
「……忘れろ」
「あれを?!無理無理!あぁ~、キレイな脚だったなぁ…」
「ハンジ!」
「今思い出してもぞくぞくするよ…多分、ナナバだったらイケる……」
「ハンジ!!!いい加減に「おーっと、怒られる前に退散だ~!」
エルヴィンが一歩踏み出す間もなく、ハンジは扉をすり抜ける。
と、ひょこっと顔だけを戻し、にやりと笑った。
「私さ、謝られるよりもそうやってお小言貰う方がいいな!性にあってる!」
「…!」
じゃ、あれよろしくね!と念押しし、今度こそハンジは団長室を後にした。
(気を使わせてしまったか…)
「有り難う、ハンジ」
恋人だけでなく、仲間にも恵まれている。そう改めて実感したエルヴィンだった。