第7章 怪しいお薬
腕を組み、横目で捉えられる場所で壁に凭れるエルヴィン。
そんな彼に、時折盗み見るようにして視線を向けるナナバ。
ハンジはといえば、隠しきれない興奮を何とか押し込めつつ、ナナバへと質問を繰り返す。
(随分と仲がいい。いやそれよりも…)
近い。
兎に角二人の距離が近い。ほぼゼロだ。
その上、まるでお互いの耳に吹き込むかのようにして会話している。
(恥ずかしいのは分かる。聞かれたくないのも分かる。だが…)
その距離に、その行為に、どうしても妬けてしまう。
しかもハンジ相手にだ。
(重症だな……)
「よし、ありがとう。疲れてるとこごめんね」
「大丈夫だよ、ハンジもお疲れ様」
ふ、と自嘲する笑みが溢れたところで、どうやら記録が終わったらしい。
「あー…で、ね、非常に頼みにくいんだけど…エルヴィンにもいくつか質問させてもらっていいかい?」
「…なに?私にか?」
薬を飲んでいない自分に何故?と視線で問えば、エルヴィンからみてどんな感じだったか知りたい、と珍しく声を落として返す。
「いや、その何というか…ナナバに聞いた状態と擦り合わせというか、答え合わせというか」
「…ナナバ、君はどうなんだ」
「私は…エルヴィンがいいならって、そう言ったけど…」
でも、ダメなら…と語尾が消えていく。
「ハンジ、手帳の新しいページを開いてくれ」
そう言いながら、エルヴィンは片腕を伸ばす。
(あの距離はナナバとだけでいい)
そう、ハンジとのあの状況を回避する為、エルヴィンは手帳に書き留める方法を選んだ。
(全く、いくら約束とはいえ、あの距離は…)
自分だって、ナナバにぴたりとくっつき内緒話がしたかったのに。
と、若干大人げない事を考えているとは悟られぬよう、意識した無表情でさらさらと書き込んでいく。
「……ハンジ、
間違っても他の誰にも見せないように」
「了解。
厳重に保管するから、ナナバも安心して」
「うん」
ありがとう。それじゃまた後でね。と満足げな表情のハンジを見送った二人。
そんな二人の間には、何となく気まずさを感じる沈黙が広がっていく。