第7章 怪しいお薬
(危なかった…)
全てがいつも以上。ナナバの表情も仕草も声も、締め付具合も。認めたくはないが、薬はやはり大成功と言わざるを得ない。
…もしも、少しでも気が緩んでいれば、ナカでぶちまけていただろうから。
「…っ、は、はぁ…ん…ふ、ぅ…ん」
「ナナバ…無理はするな」
「…うん、大丈夫…
でも、ちょっとだけ、休憩…」
「分かった。紅茶用意してくるよ」
「ん……」
くたりと横たわるナナバの頬を一撫でし、下着だけ身に付けたエルヴィンはベッドを抜ける。
ゆらゆらと揺れるランプの灯に照らされる、二つのマグカップ。
浮かぶティーパックからじわりじわりと広がるマーブル模様は、落ち着いた赤茶色。
(これは、中々に上等な…)
色がいい。
そして、香りもいい。
「ナナバ、とても美味しそうだよ」
「………」
「そうだ、紅茶と一緒に何か食べるかい?」
「………」
「……?…ナナバ?」
「………」
エルヴィンが背を向けてから、ナナバの反応がない。
「…ナナバ、どうした?」
「…すぅ…」
「寝て、いるのか…?
そうか……今日は仕方ないな」
感度が上がっているのは早々に気付いていた。だがその分、体力の消耗もいつも以上に激しかったらしい。
それでも、ナナバ本人は『休憩』つまり続きがある、またすると言っていた。当然エルヴィンもそのつもりだった。
だが…
(無理はさせられない…
流石にこの状態で、続きはできないよ)
まだまだ薄い赤茶色を一口飲むと、そっと口付ける。
(少しだけ…これくらいなら、許してくれるかな)
エルヴィンは滑り込ませた舌先で、ナナバの上唇の内側をちろりと舐めた。
「…ん、エルヴィン…」
「ここにいる、安心しておやすみ。
また朝に……」
エルヴィンの声が聞こえたのだろうか?
それとも、もしかしたら、紅茶の味がお気に召したのかもしれない。ナナバは小さく微笑む。
ふわりと広がる、優しい紅茶の香りに包まれ、穏やかな寝息をたてるナナバ。
そんな彼女を追って、エルヴィンも眠りの縁へと緩やかに意識を溶かしていった。