第7章 怪しいお薬
ちゅ、という耳慣れた音と共に、ほんの少しだけエルヴィンの舌先が入り込んでくる。
「…ぅ、ん…」
「ん…、甘い…」
それだけ言うと、エルヴィンは切り分けてあった梨を一口かじった。
部屋には小さな咀嚼音だけが響く。
「うん…そうか。
今の君は梨の味、か」
「!?」
「せっかくだ、
こっちもいただいてみよう」
黒にも見える、深い紫。
エルヴィンは房から一粒とると、丁寧に皮を剥く。
そしてそのまま自分の口へ、ぽいと入れてしまった。
(あ、食べちゃった)
何となく、今までの流れから食べさせてくれるものかと期待していた。
いや、むしろそうしてほしいと思っていた。
(って、何を…)
ふと見た葡萄は、変わらず深い紫を湛えている。まるで窓の外に広がる夜空のよう。
房を成す一粒一粒は、とても大きい。
「エルヴィン、それ巨峰?」
「あぁ。とても美味しいよ」
頷いては、また一粒食べる。
「一つ貰ってもいい?」
無言で頷きナナバをじっと見る。
心なしか、頬が膨らんでいるような…
「エルヴィン…?」
エルヴィンはナナバの唇をとんとんと叩く。どうやら葡萄をくれるらしい。だが手ぶらのままナナバを見つめ、それ以上何かする気配がない。
そして何故か、口に入れた葡萄はそのままのようで。
(自分で取りなさい、ってことだよね)
そう解釈したナナバは、ベッドサイドにある小さな丸机に目をやった。
そこには丸のままのオレンジと二粒欠けた葡萄が一房。そしてカットされた梨が。
「美味しそう」
そう呟き手を伸ばした瞬間だった。
「!!!」
ナナバの視界が、再びエルヴィンで埋め尽くされる。