第7章 怪しいお薬
「そうか…聞いていたのか」
「うん。ごめんね。
それでその……
だから、あの薬を飲めば、言えるかなって」
薬の力を借りれば、大胆な事も出来るのでは?
普段言えない事も言えるのでは…?
そしてまさに、今がその時。
「エルヴィン…
私ちゃんと、エルヴィンのこと、
す「だめだ、言うんじゃない」
「!!」
エルヴィンはナナバの隣に座ると、優しく肩を抱き寄せる。
「有り難う。
俺の事を考えて、頑張ってくれたんだね。
…だが、君は勘違いしている……」
「え…?」
「すまない、独り言だ。忘れて」
「兎に角、君の今回のやり方には問題がある。
余りにもリスクが高すぎるんだ」
「ごめんなさい……」
「それから、
無理に言おうとするのもよくないね。
…それで俺が喜ぶと思った?」
エルヴィンはあえて、ほんの少し、ちくりと刺すような言い方を選ぶ。もう二度と危ない事はしてほしくない、そんな思いを込めて。
「…ごめん…なさい……」
エルヴィンの胸へと顔を押し付け、とうとう、ナナバは泣き出してしまった。
ぽろぽろとこぼれる小さな涙の粒は、エルヴィンの胸元を静かに濡らしていく。
「ちゃんと私が言えてれば……ぐす…」
エルヴィンは抱きつくナナバを包む様に抱きしめ返し、その背中をあやすようにぽんぽんと叩く。
「ナナバ、聞いてくれ。
…ただ聞いてくれれば、それでいいから」
「きっと無意識だったんだろうが…
君はもう言ってくれたよ。
俺が欲しい言葉を」
「俺が君に好きだと告げる度…
…君は何て答えてくれた?」
「 『私も』 」
「そう言ってくれたじゃないか。
飽きずに、嫌がらずに。何度も、何度も。
それがどんなに嬉しかったか…」
「!」
「あぁ、流石…賢い君だ。
もう分かったみたいだね」
「でも、私もって言っただけで…!」
ナナバは思わず顔を上げると、泣き腫らした目でエルヴィンを見つめる。
「そうだね。でも…私もというのは、
『私も同じ気持ち』
そういう意味だろう?」
エルヴィンはそう言うと、ナナバの柔らかな頬にキスをした。
それはまるで食むような、ほんの少し吸い付くようなキス。