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まったりの向こう側

第7章 怪しいお薬





『戻りました』



「帰ってきたね」

「お帰り。有り難う、モブリット」

礼を述べつつ引いた扉の向こう、彼が両手で持つトレーの上にはオレンジ、葡萄、梨が。


「すみません、何が好きか分からなくて…」


果物の他にもクラッカーと水、そして水出し用のティーパックまである。

もし好みの物がなかったら?
もし食欲が出てきたら?
もし水以外が飲みたくなったら?

考え、思い付く限りのものを用意してきたのだろう。まさに甲斐性の塊のような人物。


「いや大丈夫だ。助かったよ。
 ナナバ、ほら」


エルヴィンはさらに扉を引き、全開にする。
そうすれば横になるナナバの目にもその色とりどりが飛び込んできた。


「ん…ごめんねモブリット。ありがと」

「いいんだよ、気にしないで」

「よし…
 それじゃ、私たちはそろそろ失礼するよ」

「あぁ、本当に助かった。
 有り難う二人とも」


一歩部屋を出れば、何故か立ち止まるハンジ。そこで僅かに振り返るとエルヴィンへと顎をしゃくる。

部屋を出ろ、ということだろう。部下から上司にむかっての合図としては相応しくないが、それはこの二人であれば当てはまらない。


「エルヴィン、これ。
 他の誰にも見せないでね」


取り出した手帳の最後のページ、短く一文を書き込み直ぐ様破る。と、小さく折り畳みエルヴィンに握らせた。


「何かあれば、直ぐに知らせて。
 それから……」

「ん?まだあるか?」

「本当にごめん」


シンプルな謝罪の言葉と共に、ハンジが腰を九十度に折る。


「…ナナバは、自分で飲んだ、と」

「状況としては、そう。
 でも止められたんだ。
 私が、止められたんだよ……」

「ハンジ、もういい」


幸いにも、薬本来の効果が出ているだけ。
それも数日の内には抜ける。


「顔をあげろ。
 モブリット、君もだ」


何時の間にやらハンジの隣に並び、同じ様に頭を下げている。
薬の開発に少なからず関わっている事へ、責任を感じているに違いない。


「………」

「エルヴィン、咎は私一人に」

「分隊長…」

「取り敢えず、今日はここまでだ。
 ……ナナバに聞きたい事もあるからな」


『ナナバと二人きりになりたい』
そんなエルヴィンの意図を感じ取った二人は、就寝の挨拶と共に足早にその場を後にしたのだった。




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