第3章 部活に入ろう
後ろから聞き慣れた声に、視線をあげる。
品の良さそうな雰囲気に整った顔立ち、艶やかな黒髪がサラサラと揺れる。
「…博臣、この手は何だ?」
名瀬博臣。
名瀬美月の兄であり、名瀬泉の弟。
名家、名瀬家の長男である。
「いや、だんだんと気温が下がってきてなぁ、冷え性にはつらい季節がやってきたものだ…そんな事より、何をそんなにじっと見てるんだ………これは??!!!!!」
秋人の肩口から顔を出し、秋人の携帯のディスプレイに視線を落とした瞬間、目にも留まらぬ速さで、秋人の携帯を奪いディスプレイをガン見する。
「昼休みの午後を友人と一緒に過ごす美月!!!!…………いい!」
病的なレベルのシスコンである。
「違うだろ!注目すべきは美月と向かい合ってる眼鏡の転校生だ!」
「転校生?あぁ、泉姉さんが言ってた例の転校生か…この子が……」
「少し大人な雰囲気の茶色の縁のメガネがよく似合っていると思わないか?」
「ふむ……確かに」
「それにこの、一見しっかり者に見えるが、照れた様な微妙な表情があどけない感じでとてもいい!」
二人して、携帯の画像を眺めながら、盛り上がる二人を、本日にどめの冷ややかな視線を送る。
「ちょっと、いい加減その気持ち悪い会話やめて、自分たちの仕事に取り掛かってくれないかしら?」
どんっと山積みにされた冊子を指差す美月。
「あと、せっかく獲得した新入部員が裸足で逃げ出しそうな顔をしているわ。」
「「え?」」
すっと美月が指差す方を見ると、若干引き気味で先輩2人を見る一年女子。
「…不愉快です。」
赤縁メガネがとてもよく似合う美少女こと、栗山未来。
文芸部の新入部員であり、長月市立高等学校の一年生であり、呪われたちの一族の末裔で、立派な異界士だ。
「や、やぁ、栗山さん、今日は遅かったんだね」
「はい、今日は日直の仕事がありまして…それより何を見てるんですか?」
そう言って秋人の携帯のディスプレイを、除きこむ。
「先輩、盗撮は犯罪です。」