第1章 先生好きだよ
約束の夜
親には友達と流れ星を見に行くと伝えた
勿論夜遊びになるので怒られた
でもここで私が折れると約束が守れない
何度も謝りながら今日だけと許しをもらった
そのまま先生が来るのを部屋で待つ
電話はもちろん握りしめたまま
そういえば何時に来るのか聞いてなかった
どこまでも脳天気な自分にイラつく
「〜〜♪」
『も、もしもし!』
『あぁ』
『先生?』
『そうだ』
『もう着くの?』
『交差点の所で待ってる』
ツーツー―――。
ほんと話してくれない
別に待ち合わせだけだから
そんなに喋らなくてもいいんだけど
これは流石に喋らなさすぎだろ!
ちょっとむかつきながら交差点に向かった
「先生どこだろ」
〜〜♪
『先生どこ?』
『目の前の車にいる』
『もっとわかり易くしてよ!』
ツーツー―――。
また必要最低限
どんどん先生のペースにのまれる
怒りたいけどまだ怒れる仲じゃないから我慢
赤い普通車の扉をノックし
恐る恐る助手席に乗る
「先生こんばんは」
「あぁ」
「お邪魔します…」
「なんだその格好は」
「可愛いでしょ?」
「山に行くんだぞ」
「ちゃんと運動靴じゃん」
「ワンピースの事だ」
「いいじゃんべつに!」
思わず悪態をついてしまった
折角お洒落をしても先生から見れば
TPOを弁えない奴に見えたのかな
可愛いって言って欲しかっただけなのに
努力が空回りをする
喧嘩の様な会話をしても
先生はただ運転に集中している
きっと私の事なんてどうでもいいから
怒らせた所で痛くも痒くもないんだろうな
鬱々とした雰囲気の中
先生はジッポと煙草を取り出した
黒い?グレー?のパッケージ
あまり見た事ない煙草だった
「先生って煙草吸うの?」
さっきまでの事を忘れたかの様に
心の赴くまま質問してみた
「すまない、消す」
「いやいいよその匂い好きだし」
「匂いか…甘いだろ」
「バニラみたいな匂いだよね
香水かと思ってたけど煙草なんだ」
「ブラックデビルだ」
「先生にお似合いだね」
煙草の名前が可笑しくて
つい余計な一言を言ってしまった
あわてて口を抑えるけど先生は表情をひとつも変えない
その時先生の携帯が鳴った