第1章 隣の席の狛枝君
「あ、ところでさ…倉敷さんって猫飼ったことある?」
『……え?猫?』
うん、猫。迷い猫拾ったんだよ、と狛枝が話してくれたところで、授業終了のチャイムが鳴った。
『飼うの?』
「…うーん…動物を飼ったことないから、悩んでるんだけど。でも首輪に名前もないし、外に出して轢かれても気分悪いしね?」
白くてふわふわなんだよ、と話す狛枝は、飼うのを悩んでいるというわりにその猫が気に入っているようだった。
日直が一周したので、帰りのHRの時間を使って席替えをすることになった。しかし、私としては特に近くになりたい生徒もいないので、流れ作業のようにくじを引く。
黒板に書かれた座席表に名前を書き込むと、また狛枝の隣の席だった。
「おい狛枝、またかよ!ずりーぞ!」
「え?なにが?」
私とは反対側の狛枝の隣に座っていた九頭龍が狛枝に突っかかってきているが、狛枝は相手にすることなく、こちらに笑いかけてきた。
「奇遇だね。三回連続キミと隣の席なんて…ボクはツイてるよ!」
『ツイてるかな?代わり映えしないっちゃしないけど、喜んでもらえてよかった』
「おい倉敷、お前マジでこのままだと卒業まで狛枝とずっと同じクラスでずっと席隣だぞ!」
話しかけてくる九頭龍に、やたらと狛枝の頭が被って会話しづらい。素直に狛枝と被らない場所に顔を出して会話を続けていた九頭龍だったが、邪魔してくる狛枝に気づき、容赦なく後頭部を叩いた。
『別に…どこに座っても同じなのでは?』
「同じじゃねーー!」
騒ぐ九頭龍を委員長の小泉が黙らせ、HRが終わった。そのまま帰ろうとしたのだが、小泉に腕を引っ張られ、教室の隅に連れていかれた。