第1章 隣の席の狛枝君
すると、帰り道の話題の中心になっていた狛枝の姿を見かけた。彼は大人の男性と話しており、相手の男性は狛枝に何度もペコペコと頭をさげている。
(…あ)
男性の手には、白くてふわふわなんだよ、と狛枝が話していた特徴と一致する猫が抱かれている。ちょうど二人と一匹が分かれたタイミングで狛枝とすれ違い、声をかけた。
『狛枝、飼い主見つかったの?』
「…あ、倉敷さん。こんばんは。そうなんだ、拾った時弱ってたから動物病院に連れて行った帰りにばったりね」
『……そうなんだ』
「うん、良かったよ。今日のボクはツイてるみたいだ。倉敷さんともまた隣になれたし、猫の飼い主も見つかったしね」
そう言う狛枝が持つビニール袋の中に、猫用の餌や遊び道具が見えた。私は、自分を納得させるかのようにもう一度、「ほんと、ツイてるよ」と呟いた彼を、なんだか放っておきたくないような気がした。
『…もう帰るの?』
「うん、そうだね。特に用事もないし」
『これから買い物行くんだけど、その前に暇なら甘いものでも食べない?』
「えっ?」
彼は一瞬驚いた顔をして、すぐにパッと嬉しそうに笑った。
「喜んで!やっぱり、今日のボクはサイッコーにツイてるよ!」
『なら、よかった』
夕暮れの街を二人で歩く。
私には、超高校級の幸運と呼ばれる彼が、みんなの言う強運の持ち主だとはやはり信じがたい。